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2009年1月23日

「宅野の環境守りたい」 (H21.01.23 島根日日新聞)

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■平成21年1月23日 島根日日新聞
まちがゆれる
大田市仁摩町
新不燃物処理場建設問題
「宅野の環境守りたい」
反対運動、しがらみの中で


現在稼動している三カ所の不燃物処理場の埋め立て容量が二○一三
年度中にはいっぱいになるとして、大田市が急ぐ新不燃物処理場の建
設の候補地となった同市仁摩町宅野地区では反対運動が起こるなど、
まちがゆれている。宅野地区は、日本海に面した港町で住宅が密集し
ている。同地区の人口は約六百六十人、うち六十五歳以上は約三百人
と市内でも高齢化率44.9%(○八年四月現在)と高く、処分場建設問題
をどう捉えるか、住民の温度差も大きい。


◇既存の処分場が13年にいっぱいに

市が新不燃物処分場の建設に具体的に動き出したのは、○七年度。
庁内組織である新不燃物処分場建設検討委員会を設置し、適正規模
や構造、候補地の選定に当たった。新施設の建設に一○年度から着工
し、三年後の十三年からの供用開始を目指す方針だ。

五カ所に絞り込まれた候補地から市議会議員全員で構成された特別委
員会が最終候補地として宅野地区を選定したのは○八年八月で、九月
議会で意見具申された。市のほぼ中央にあることや、搬入道路、電気水
道の整備状況などから評価が高かった。

その後、同年十一月に同地区での説明会が開かれ、住民約五十人が参
加したが、「事前に住民には何の説明もなく、『議会で決定したから』とい
う説明」に、住民は疑問をなげかけた。


◇反対運動が起こる

「宅野の自然と生活環境を守る会」(山上光俊代表)は、竹腰創一大田市
長に対し、「計画の白紙撤回」を求める請願書を今月十三日に提出した。
これに対し二十日、竹腰市長は「宅野地区での建設に理解をいただける
よう、引き続き説明してまいりたい」とする旨の回答を行った。

「市の強引な動きを感じて、行動すべき」と会を発足し活動することに踏み
切った山上代表。候補地と近接の住宅との距離が三百メートルであること
を指摘し、「住宅密集地のそばに(処分場を)つくることは絶対にいけない」
と声をあげる。市の回答を受け、二十二日夜に集会を開く。

会の事務局を勤める西尾功さん(52)は、「処分場建設は本来ならもっと慎
重に候補地を選定すべき問題。住民や専門家の意見を取り入れていない
のでは候補地ではない」という。西尾さんは兵庫県出身で宅野の町を気に
入り I ターンし、○六年に同地にカフェを開店している。「外から来たからこ
そ、宅野の素晴らしさが分かる。当たり前ではないこの環境を、このまま将
来に残したい」との思いが、行動の原点だ。
会の発足からはまだ一月もたたないが、会のホームページを立ち上げ、活
動の意義を発信する。


◇「やむをえない」との声、町が割れることへの危ぐ

地元の六十代の漁業者は、「始めは賛同していたが、意見を聞いたり資料
を調べるうちに、これは大変な問題だ」と考え、建設に反対の意思を示す。
しかし、「『関係ない、しょうがない』と言っている年配の人が多い」と、温度
差を感じている。事実、「反対ではない」「やむをえない」との住民の声があ
る。交通の問題など不安要素はあるが、「必要な施設」であることが大きな
理由だ。

横のつながりなどが強い昔ながらの土地ゆえに「自分は反対だが知人に
賛成してくれと言われる」(80代女性)と板ばさみとなる人もいる。性急な流
れへの戸惑いも感じられ、守る会への署名は書かない人や、一度書いたが
撤回したいという人など、処分場建設をめぐる土地の人々の思いが交錯し
ている。西尾さんは、「皆が後の生活で住民間にしこりが残ることを気にして
いる」と痛感する。

「住民の了承、反対は半分半分ではないか」とみるある住民の男性は、「こ
の大変な状況が長引くことはよくない。どのように決着をつけるかが大事だ。」
と話していた。

どこかに建設地を確保しなければならない処分場。その行き場を巡って、
行政のリーダーシップと、市民の力の双方が問われている。